青春の思出(登山道作り)

U岳への登山道作りの思い出

 

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平成3年から続いた登山道づくりの一こまを紹介する。  真夜中、午後9時50分、山に向かう。荷重やく7㎏、草刈り機械の燃料ペットポトル2本が含まれている。ヘッドライトの灯りをたよりに、高度、やく1000m、距離5㎞の白水岳の下の鞍部に張られたツェルトのところまで歩くことになる。今日も、単独山行である。  闇夜の静寂の中に、ヒー、ヒーとか細く哀れを誘うようにトラツグミの鳴き声だけが、かすかに聞こえる。ブナの樹間をくぐり、いつもの滝の急勾配を登り、幽霊みたいに立ちはだかるダケカンバの樹影を過ぎ、淡々と進む。職場のことを頭に浮かべたり、愚痴を言いたくなったり、そんな時はすぐに「こんなことでは、人間まだまだだめだなあ。」と自戒したりして、雑念を振り祓いながら登る。疲れはあるものの、体がほどよくほてり休む気はない。ただ歩き、ただ登り続けるだけである。  0時ごろ、稜線に近い通称、”心臓破りの坂”にきた。両側にびっしり生い茂ったネマガリダケの間に刈分け道が北側に見える1043ピークに向けて真っ直ぐに続いている。  登山道は、ふつう登りやすいようにジグザグに曲げられて造られるものであるが、全く真っ直ぐに延びているだけである。その距離300mはあるだろうか。この地点は、前の年に同行の仲間と刈り進んだとき、その日のうちに稜線のピークに辿り着きたくて、私が全精力を出しきって、熊のように真っ直ぐに刈り進んだものである。直登コースの多いこの地の多くの登山道はきつすぎてたまげられている。この地の山はもともと急峻なのである。


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”心臓破りの坂”を登りつめる。稜線の上の闇空に私を導いてくれるかのように北斗七星のししゃくが輝めいている。気温・5℃、無風、冷えきって静まり返った夜の 帳の深奥に瞬く七つ星。なんと幻想的なことか。この真夜中をたった一人で、なんと劇的なことか。感動がこみあげ、涙がにじみ出る。ありがとう。ありがとう。神様、ありがとう。私にこんな楽しみを許してくれることに感謝せずにはいられない。そして、心の中では心配しながらも、玉子焼きを作ってくれるわが妻にも頭が下がる。  人はそれぞれ趣味を持ち、自分の好きなことをしているときに、一番充実している。私は今、充実している。そして、山に登る人は   たくさんいるが、山に道をつける人はあまりいないものである。私は、登山そのものにはあまり、興味がなくなってきている。道を切り開いて進むことが楽しい。汗をかいて、へとへとになるまで頑張り通す。飯がうまくなるし、頭のボーとしたモヤモヤが取れる。何よりも青春の情熱を燃やすと言うか、それを実感することが得難い喜びである。  午前1時、S岳の下に張られたツェルトに着いた。中から前から置かれていた刈払い機を出し、寝袋を広げる。なんと少しだが濡れているではないか。煙草をふかしながら、無事たどり着いたことを喜こんだ。まわりの生えたネマガリダケの中でタヌキだと思うが、ガサゴソやっている。身構える鉈も持っていない。そのうち、うつらうつら寝入ってしまった。朝、5時半、入り口を開けると、素晴らしい晴天であった。  やればできる。勿論、一人でもやる覚悟でいた。この試みを通して、私はたくさんの仲間もできたし、やる気のある生涯の友もできた。今、全長20㎞にも及ぶU岳への周回登山コースが完成したのである。    ここに平成5年の山行記録を整理したものがある。 o山行日数………32日(下調 べ、行事の登山を含めて)  ・夏休み期間 4日間   単独山行 15日  ・山中泊 5日 そのうち3日 単独  ・刈払機延べ運転時間  約90 時間  ・認めた野鳥             ジューイチ コノハズク トラツグミ ヨタカ  エゾライチョウ  クマゲラ シマエナガ  カラ類  コゲラ カケス イカル   アカゲラ

         (あとがき  この登山道は維持管理ができず、今は消滅している。 )